「サードプレイス」としてのミュージアム

美術館で働いていると、「あなたが目指す美術館は?」と問われることがあります。

私が目指すミュージアム*は

「市民にとってのサードプレイス」です。

 

*ここでいうミュージアムは広義の博物館を指す。美術館・歴史資料館・文学館・動物園・植物園・水族館など、すべての博物館施設を含む。

 

サードプレイスとは、日本語に直すと「第三の場所」。

すなわち、第一の場所としての自宅、第二の場所としての職場や学校。

それに続く第三の場所として、心地よい場所として、市民にミュージアムが選ばれるような施設を目指したいと思っています。

(サード・プレイスについてもっと知りたい人は、ググってみてね)

 

当然、それぞれの施設によってその役割やミッション(使命)は異なってきます。

例えば国立の施設だったり国宝や重要文化財を管理している施設だと、日本国内のみならずグローバルなミッションが課されたり、県立や政令指定都市立の施設であれば全県域を視野に入れた展覧会の企画立案が必要になってくるかもしれません。

私が勤めているような中小規模の自治体の中小規模の美術館では、企画の上でも来館者のマーケティングの上でも、もう少し絞ったターゲット設定が必要とされます。

もちろん、中小規模の美術館であっても、県域を超えた来館者の引き込みも、東京オリンピック2020を控えた今、グローバルな視点も不可欠となります。

要はバランスの問題です。

大口開けて待っていても、うちのように人員の少ない施設で、世界中からお客様を呼べるような求心力がある企画を立案することを重要な目標に設定してしまうと、身の丈に合わない背伸びをし過ぎたものになってしまうでしょう。

 

一つ例を上げると、市民にとってのサードプレイスになるべく、私が力を入れた事業は、「ボランティア育成」社会教育や生涯学習の分野です。

 

美術館ボランティアの話をすると長くなるので、今回はサードプレイスとボランティアに絞って話をしますが、近隣住民の中で美術館賞が好きな人たちが集い、語らいう場所として、美術館が一役買えればと思っています。

たとえば、研修会や活動日に美術館に集まって、ボランティア活動をする。そこまではデフォルトですが、そのあとに「先日えらい熱心に見てくれるお客様がいて嬉しかったよ」というような活動内での話はもちろんのこと、「この間〇〇〇展に行ってきて、とても面白かったよ」とか「今年は〇〇〇でトリエンナーレがあるから、家族と行ってこようと思うんだ」という美術の趣味の話で盛り上がる様子を見ていると、良い集団を作れたかな、とちょっと気分がよくなります。

この例でいうところの市民はボランティアに限定されてしまいますが、ボランティアさんは美術館にとって大切な存在です。彼らが美術館の魅力に気づき楽しんでくれることにより、彼ら自身が発信塔になってその魅力を来館者さんに伝えてくれたり、次なるお客様を呼んでくれて、その連鎖をつくる源となってくれます。

(ボランティア論はまたいつかの機会にゆっくり話しましょう)

 

世の中にはいろんな施設や団体が多いけど、例えば病院なんかは、いくら尊い使命や責任を負っていたとしてもサードプレイスには選ばれにくいのかな・・・と思います。

美術館ではコーヒーやスイーツは出ないけど、商業施設やアミューズメント施設に負けないような、市民にサードプレイスとして選んでもらえるような場所を目指したいものです。

 

蛇足:私が「サードプレイス」という言葉を知ったきっかけは、とある静岡県内の研究会においてでした。そこでサードプレイスを「3rd プリウス」に聞き間違い、なぜ3世代目のハイブリット車が突然出て来たんだ???と疑問に思い、パネリストに後から質問して勉強させていただきました。3rd プリウスの聞き間違いからはじまった論考ですが、今では私のミュゼオロジーの中でもかなり核心的なロジックのうちの一つとなっています。